マイルスに教えられた事 その2

2012/12/31 at 14:02
←マイルすに教えられた事その1

birth of cool

マイルスを語る時、”Cool”(クール)という言葉がキーワードだと思います。この英単語の口語的語感は単に「冷静」というだけでなく、知性的、洗練された、というニュアンスに加え、「いかす」つまり、何よりもかっこよくなければなりません。 マイルスはワン・アンド・オンリーというだけでなく、いつの時代も常にジャズ界のトップランナーとして君臨し続け、時代の節目にバンドのスタイル驚く程変化させてきました。そのどれを聴いても一貫して “Cool” な音楽をやろうとするマイルスの姿勢が感じられるのです。

活動初期、マイルスは新進トランぺッターとしてパーカーのバンドにも在籍、ニューヨーク・バップ・シーンのど真ん中にいたわけです。周りにはクリフォード・ブラウン、ディジー・ガレスピー等、すごいトランぺッターが目白押し。全く個人的な推測ですが、音も貧弱、テクニックも大したことのないマイルスは、相当コンプレックスを感じていたのではないかと思います。(実際パーカーとの録音を聴くと、聴き劣り感は否めません。) ビーバップの演奏は、弁論大会の雄弁みたいで、すごい勢いでフレーズを吹きまくる、熱気あふれるアドリブ合戦です。圧倒的な個人技を誇る奏者がひしめく土俵で、同じ事をやっていたら勝てる訳がないとマイルスは考えたに違いありません。 悩んだ末、彼の出した答えが、アルバム “Birth Of Cool” だったと思います。個人技、アドリブ中心と正反対の方向性、つまり9人編成の緻密で洗練されたアンサンブル。そして熱に浮かされたビーバップの “Hot”とは真逆、知性的で冷静な音空間。何よりもそこには明確で意識的な「スタイル」がありました。

録音に参加したミュージシャン達はその後ウエスト・コーストを中心に「クール・ジャズ」というジャズのスタイルを作っていきます。 しかし、マイルス自身のアルバムを聴くと、このクール・ジャズの一派とは全く一線を画した空気があります。マイルスにとって”Cool”とは、単に冷静、知性的な演奏という表面的な事ではなく、意識面での、音楽や物事に対するアティテュード(意識の姿勢、態度)を意味していたのだと思います。ビーバップの演奏家達にコンプレックスを持っていながらも、”Hot”で汗だくなそのスタイルが、田舎っぽくダサイと感じていたマイルスは、同時に、ずば抜けて冷静で洗練された知性と感性が、自分に備わっている事を強く自覚していたと思います。その目覚めた意識を形に表現することこそ「”Cool”=かっこいい」と、そして、それができる自分の存在そのものが”Cool”なんだと、彼はそう言いたかったのではないかと想像しています。このアルバムはマイルスがワン・オヴ・ゼムからワン・アンド・オンリーへ一歩踏み出した記念碑と言えるでしょう。彼のどのアルバム、何を聴いても、「オレの音楽は違うだろ?こんな芸当はオレだからできる」とささやく彼の声が聞こえる気がしきます。こんなに自覚的な強い自己意識を持ち、それを意識的に表出してきた男は、ジャズの世界では、他に知りません。<マイルスに教えられた事その3に続く>

内緒のプロジェクト進行中

2012/12/09 at 23:13

以前の記事「ChickenShackリユニオン無事終了」でもちょっと紹介した内緒のプロジェクトが進行中です。内容はまだ内緒ですが、写真だけアップしますね。乞うご期待!

11月 megasameta w/向井滋春@Sometime

2012/11/13 at 15:19

11/10(土)の megasameta Quartet@吉祥寺Sometimeは、フロントに日本を代表するトロンボニスト、向井滋春、そしてレギュラーの古野光昭(b)安藤正則(ds)。向井さんとは知り合って30年以上のお付き合い。気心が知れていて、いつご一緒しても楽しい演奏となります。この日はこの組み合わせで今まででもベストの一晩でした。向井さんのプレーは勿論、古野さん安藤君も素晴らしかった。その上バンド内の絡みがスゴく自由で、意識的ではなく自然な起承転結が生まれてきました。スポンテニアスなイナタ―プレイとはこういう感じ!お客さんもよく聴いていて下さいました。

この日の曲目は:
 
1st
Out Of Nowhere
Foot Prints
Chan’s Song
Autumn Leaves
Autumn In New York
Firm Roots
 
2nd
Over Joyed (Pf Trio)
I Remember You (Duow/向井)
Batida Diferente
(Summer Night)
Someone To Watch Over Me
Bolivia
 

次回の megasameta Quartet@吉祥寺Sometimeはフロントに私が尊敬するサックス奏者山口真文さんを迎えて、ウエイン・ショーターの曲等をお聴かせします。独特な存在感のある真文さんの演奏は聴きものです。ぜひお運び下さい。

クルン・サイアム/吉祥寺 タイ料理

2012/10/22 at 20:28

p2吉祥寺はエスニック料理も大激戦区。タイ料理で一番と思うのは、「クルン・サイアム」。タイ料理は強い辛、酸、甘味、ナンプラーにスパイス、パクチーやミント等ハーブたっぷり。その一つ一つが強烈な個性を発揮するので、綱渡り的アバンギャルドなバランス感が不可欠な料理。このお店はそのバランス感がとてもいいのです。私のお気にりはタレー・ハッポン・カリー。とろとろ半熟卵とじ海鮮カレー。ぜひお試しあれ!

 

マイルスに教えられた事 その1

2012/10/07 at 18:43

私は中学生の頃から「ジャズ喫茶」に出入りするちょっとませた少年でした。学生寮で先輩がかけていたジャズをいっぺんに好きになり、もっと聴きたいとその先輩に言うと、ジャズ喫茶に連れて行ってくれたのがはじまりでした。タバコと珈琲が入り混じった匂いと、店自慢のオーディオから流れる大音量のジャズ。ゆうに数千枚のコレクションからマスターがかけるLPレコードの音を、珈琲をすすりながらただただ黙って聴くだけのお店。私語など厳禁。「通」じみた雰囲気が大人な感じに思え、中学生の私にはわくわくする経験でした。ジャズ喫茶は、今思えばかなりへんてこな商売ですが、当時はそれで成り立っていたのは面白い時代でした。ともあれ、珈琲一杯で何時間も粘れて、ジャズをしこたま聴けるので、すぐ入り浸るようになりました。当初は何の知識もなく、全く真っさらで聴いていたわけで、勿論ジャズの音楽理論なんかはゼロ。「いったい何だかわかんない」のですが、私の耳にはすごく新鮮で面白い音楽に聴こえました。(可能ならあの頃に戻りたい!)ある日、いつものようにジャズ喫茶で聴いていたら、何枚目かにすごく不思議なジャズがかかりました。それまでに聴いたジャズとは全く異質、まるで宇宙人の音楽のよう。同時に背中がゾクッとする程かっこいい!そのレコードは赤いジャケットで、マスターに確かめたらマイルスの新譜、”Miles Smiles” と教えてくれました。それからしばらく、ジャズ喫茶に行く度にこのアルバムをリクエストしていました。理論も何も知らないので、分析的には何がどうかっこいいのかわからないのですが、何度聴いてもゾクゾクしてしまうのでした。もうこれは買うしかないと、輸入版を扱うレコード店に行ったら、新譜なのでアメリカから取り寄せになると言われ、1ヶ月かそこら経った頃、待ちに待った入荷通知(ハガキ)が来ました。受け取りに行く時のわくわくした気持ちは今も忘れられません。かくして、Miles Smiles は私が初めて買ったジャズのレコードとなりました。(実はその時もう1枚買ったのですが、それは、”Solo Monk“。こちらも強烈なインパクトを受けたレコードでした。)その後、”Sorcerer“、”Nefertiti“とマイルスの新譜が出る度に夢中になりました。ミュージシャン経験を積んだ今聴いても、そのかっこよさは全く色あせてはいません。その上、音楽的にも他の追随を許さないとんでもない内容という事がよくわかります。(少年時代の自分はいい感性してたなと、少しまんざらでもない気持ちになります。)

その後、様々なご縁が重なって、図らずも私はジャズピアニストになってしまいました。なぜ中学時代の事を書いたかと言うと、私のジャズ人生でマイルスから受けた影響、教えられた事は計り知れないのですが、振り返ってみるとマイルスとの出会いは、ジャズ喫茶で初めて聴いた衝撃の Miles Smiles にさかのぼるからです。<マイルスに教えられた事その2に続く→

9月 megasameta w/多田誠司@Sometime

2012/10/02 at 21:58

9/28(金)吉祥寺Sometimeでアルトサックスの多田誠司を迎え、拙リーダーライブをやりました。この日はレギュラーの古野(光昭)さんが熱を出したため急遽、山田晃路(b)にスイッチ、当日急に代役をお願いしたにもかかわらず、何の違和感もなくきっちり演奏してくれました。さすが。ドラムはおなじみ安藤正則(ds)、すごくいい感じでワイルド。カッコイイ。

多田君は相変わらず素晴らく、前回ご一緒した時より進化していました。音色やニュアンス、タイムを自由自在に駆使し、「音のそぶり、ジェスチャー」を効果的に使うアプローチが大変印象的でした。ソロが進行する程に、きわどい所でメイクセンスするエッジィーな瞬間が多々生まれ、インテンポ、インコードなのに、アウト感漲る演奏。今まで聴いた事のない、正に多田ワールド。特筆すべきは、このようなアプローチが行き過ぎると「音の曲芸、サーカス」、はたまた「下品、キワモノ」になりかねませんが、音楽表現を逸脱しない自然な自省があるのが素晴らしく、彼のセンスの良さに感心しました。今、私が注目するイチ押しのサックス奏者です。

この日の演奏曲は:

1st
You Are My  Everythin
Voyage
Maden Voyage
Up Jumped Spring
A Nightingale Sang In Berkley Square
So In Love
 
2nd
Without A Song
Blue Monk
Little B’s Poem
500 Miles High
Darn That Dream
Black Nile
 

megasameta Quartet@Sometime、10月は諸般の事情でお休みとなり、11/10(土)、フロントには日本を代表するトロンボニスト、向井滋春の他、レギュラーの古野光昭(b)安藤正則(ds)で演奏します。ぜひお運び下さい!

山岸潤史そしてニューオリンズな夜

2012/09/19 at 01:11

チキンシャックの盟友の一人、ギタリストの山岸はニューオリンズ在住、地元誌に年間ベストギタリストに選出される等、現地に根ざしてしっかり活躍しています。彼がジョー・サンプル(クルセーダーズで名を馳せたピアニスト)のクレオール・ジョー・バンドの一員として来日、先日ブルーノートのショーに行って来ました。 ザイデコをベースにニューオリンズご当地音楽を詰め込んだバンドでした。ジョーは優れたジャズピアニストですが、半分以上アコーディオンを弾いてました。キーボード(デジタル・ピアノ)を弾く時より、何か楽しそう。ジョーの母親はニューオリンズの人だったので、子供時代に聴いたのは様々なニューオリンズの音楽だったそうです。この歳になった今、自分のルーツの音楽を演りたいという気概が伝わってきました。でも、すごくモダンな音楽性の持ち主なので、彼のバンドはニューオリンズで聴いたザイデコより洗練されスマートかな? そうだとしてもバンドの「楽勝のゆるゆる」感はニューオリンズのクラブギグそのまま。実は山岸がニューオリンズに移るもっと前、4~5年に渡って私自身、あの町に通い詰めた時期がありました。彼らのステージの空気から、当時の色んな情景が記憶に呼び覚され、懐かしくなりました。あの感じは好きやな~~!

山岸ですが、全く違和感なくとけ込んでいるだけでなく、ともすればイージーに流れやすいバンドを、要所要所で締める役割をしっかり果たしていて、さすが。彼のギターソロもすごく良かった。彼がソロを弾く時、気持ちのテンションを上げ、エネルギーをぎゅっとコンプレッションをかけるようにしぼりだしていく感じがあります。音の芯に熱を帯びたフィラメントのような何かがあってそれは彼独特。昔も今も変わりありません。コンパクトなソロパートながら、バンドがクッと盛り上がりアクセントになっていました。他のメンバーから信頼されてるのが傍目からもわかります。同じ仲間として彼を誇りに思い、すごく嬉しくなりました。

私自身もニューオリンズの町と人々の暮らしぶりから少なからず影響を受けたと思います。それを一言でいえば、お金や物がなくても人生を楽しめるんだという事、そのコツみたいなものを学びました。彼らの音楽にもそういう享楽的な心が溢れています。現在私の音楽はかなりストイックな方向性ですが、ストイックであると同時にあの「楽勝ゆるゆる感」も持ち込めたらいいなあと思いました。一見矛盾するようですが、自分にストイックであっても、同時に「根っからの寛容さ」、「結果に対する楽天性」も兼ね備える心境は十分有り得ると思います。難題ですが全ては自分の心の持ち様、これからの目標が一つ新たに増えました。

日本に居ながら、久々にニューオリンズの空気を味わい、色々思うところの多い一夜でした。

免疫力アップは相模嵐山

2012/09/12 at 00:47

「森林浴は免疫力を高め、しかもそれが1ヶ月持続する。」と昨日見たテレビである大学の先生が言っていました。今朝目が覚めたら、「よし、森林浴するぞ!」と急に思い立ち、善は急げ、ネットで手頃な近場ハイキングを探しました。 「これだ、えい!」とすぐに電車に乗って出発。私は武蔵野市在住、中央線族。高尾から一駅の相模湖駅下車。手頃な近場です。 駅前でお弁当を買っていざ出発、湖畔すぐ近くの「嵐山」へ。標高は400mちょいですが、まだ心身ともに目覚め切ってないので、一気に頂上まで登りつめる急なコースはタフでした。登り始めて30分で山頂。ふーふー。ちょうどお昼なので山頂でお弁当。日陰に入ると蚊がいっぱい寄ってくるので、日なたで食事。暑い!こりゃたまらん。 食後すぐに出発することにし、山の反対方向へ道を降りました。こちらは山をうねうねと進む道。途中沢を渡ったり、竹林を抜けたりと変化があり、1時間20分の道のりはあっという間でした。 降りてきた所は相模湖の反対側、出発点の駅は対岸です。ネットで調べた通り、湖畔に渡し船の桟橋があります。その近くに黄色いドラム缶があり、それを太い棒で思い切り叩けと看板に書いてあります。それで「グワン、グワン、グワン!」入り江の反対側にあるお茶屋さんで、おじさんが手を振って応えてくれました。やがてモーターボートでやって来て、対岸まで送迎してくれました。

水辺の風が心地よく、汗がすっと引きました。 駅前で昔懐かしい感じのかき氷を食べ、頭がキ~~ン! 再び中央線に乗り、帰宅したのが午後4時頃。朝家を出たのが10時だったので、実に手頃な森林浴ハイキングでした。 免疫力アップ、しかも1ヶ月持続!!! ホントかなあ?

夏の電力不足・養老孟司の話

2012/09/10 at 15:45

そろそろ夏が終わろうとしています。振りかえって見ると、関西の電力が足りなくなるから大変だ!と大騒ぎの最中、一人「電力不足、結構な話じゃありませんか。」と言っていたのが養老(孟司)さん。なぜ結構かというと、「人の価値が上がる」から。電力不足で機械が止まると、その分人が働く必要がある。人へのニーズが高まり人の価値が上がる、との論です。逆にいうと、社会を高度に機械化した事により、人は自分達の価値を自ら下げる結果を招いてしまった、という考えです。しかし、養老さんは何も前機械文明社会への回帰を原理主義的に唱えているのではないと思いました。むしろ、機械化をここまで押し進めてしまった人間の物の見方、効率を上げる事が強迫観念化した現代の価値観の是非を問うていると思います。換言すると、人が額に汗して働く事の尊さを見失った社会は本当に人のためになるか?、幸せをもたらすか?という問いです。ある程度の効率は確かに人に「楽」をもたらします。しかし機械化が進み過ぎた先進国を見ると、どこも大量の失業者、経済も社会も政治も矛盾だらけ。いっぱい物を持っているのに満足感が生じず、先行きに夢や希望も乏しい。それどころか仕事をなくしたら、自分を無価値と感じ心が病んでしまう。日本も例外ではありません。こんな高効率社会の対極にあるモデルとして「幸福の国ブータン」を考えれば、その対比から私達の問題点が鮮明になると思います。 一体この機械化、効率化の正体とは? 真に人に幸せをもたらす価値観とは? そして、そもそも「幸せ」とは? 自分の頭でよく考えてみろと養老さんが問いかけているように感じました。

ちなみに、今夏関西の電力実需を検証すると、大飯原発の再稼動がなくても電力は十分足りていたとの報道。この国の病は重い。

ベランダのジャングル

2012/09/04 at 16:43

今年の夏の暑さは尋常ではありませんね。おかげでベランダのハーブ達も思い切り成長しました。特にバジルはびっくりするほど。その他大葉、(バジルに隠れて見えませんが)イタリアンパセリ、ミツバ、山椒、唐辛子、アシタバ、ローズマリー、ミントがジャングルの仲間。香りも中々強く、じゃんじゃん使っても、後から後から茂って来るので、こちらが負けそう!