マイルスに教えられた事 その1
私は中学生の頃から「ジャズ喫茶」に出入りするちょっとませた少年でした。学生寮で先輩がかけていたジャズをいっぺんに好きになり、もっと聴きたいとその先輩に言うと、ジャズ喫茶に連れて行ってくれたのがはじまりでした。タバコと珈琲が入り混じった匂いと、店自慢のオーディオから流れる大音量のジャズ。ゆうに数千枚のコレクションからマスターがかけるLPレコードの音を、珈琲をすすりながらただただ黙って聴くだけのお店。私語など厳禁。「通」じみた雰囲気が大人な感じに思え、中学生の私にはわくわくする経験でした。ジャズ喫茶は、今思えばかなりへんてこな商売ですが、当時はそれで成り立っていたのは面白い時代でした。ともあれ、珈琲一杯で何時間も粘れて、ジャズをしこたま聴けるので、すぐ入り浸るようになりました。当初は何の知識もなく、全く真っさらで聴いていたわけで、勿論ジャズの音楽理論なんかはゼロ。「いったい何だかわかんない」のですが、私の耳にはすごく新鮮で面白い音楽に聴こえました。(可能ならあの頃に戻りたい!)ある日、いつものようにジャズ喫茶で聴いていたら、何枚目かにすごく不思議なジャズがかかりました。それまでに聴いたジャズとは全く異質、まるで宇宙人の音楽のよう。同時に背中がゾクッとする程かっこいい!そのレコードは赤いジャケットで、マスターに確かめたらマイルスの新譜、”Miles Smiles” と教えてくれました。それからしばらく、ジャズ喫茶に行く度にこのアルバムをリクエストしていました。理論も何も知らないので、分析的には何がどうかっこいいのかわからないのですが、何度聴いてもゾクゾクしてしまうのでした。もうこれは買うしかないと、輸入版を扱うレコード店に行ったら、新譜なのでアメリカから取り寄せになると言われ、1ヶ月かそこら経った頃、待ちに待った入荷通知(ハガキ)が来ました。受け取りに行く時のわくわくした気持ちは今も忘れられません。かくして、Miles Smiles は私が初めて買ったジャズのレコードとなりました。(実はその時もう1枚買ったのですが、それは、”Solo Monk“。こちらも強烈なインパクトを受けたレコードでした。)その後、”Sorcerer“、”Nefertiti“とマイルスの新譜が出る度に夢中になりました。ミュージシャン経験を積んだ今聴いても、そのかっこよさは全く色あせてはいません。その上、音楽的にも他の追随を許さないとんでもない内容という事がよくわかります。(少年時代の自分はいい感性してたなと、少しまんざらでもない気持ちになります。)
その後、様々なご縁が重なって、図らずも私はジャズピアニストになってしまいました。なぜ中学時代の事を書いたかと言うと、私のジャズ人生でマイルスから受けた影響、教えられた事は計り知れないのですが、振り返ってみるとマイルスとの出会いは、ジャズ喫茶で初めて聴いた衝撃の Miles Smiles にさかのぼるからです。<マイルスに教えられた事その2に続く→>